自家用車を持っている人、自動車を製造・販売する業種に従事している人など、自動車と少なからず縁のある人なら「自動車リサイクル法」という法律について、少なくとも名前を聞いたことはあると思います。
これは、使用済み自動車の処理をめぐり成立した法律で、関係者がそれぞれの立場で何をすべきなのかが定められています。
法律が制定された背景には、自動車の再資源化というテーマも関係しており、できるだけ自動車からゴミ・廃棄物を出さないよう、負担の度合いを決める思惑もありました。
この記事では、自動車リサイクル法と再資源化について、できるだけ分かりやすく解説するとともに、リサイクル対象となる車の考え方・捉え方についても考察していきます。
目次
そもそも、自動車リサイクル法ってどんな法律?
名前の響きから、自動車の部品やパーツをリサイクルするための法律であることは、何となくイメージできるかもしれません。ただ、具体的にどのような事柄が定められているのかは、あまり気にせず車を運転している人が多数派だと思われます。
そこで、そもそも「自動車リサイクル法」がどのような法律なのか、全体の概要についてお伝えします。多くのドライバーにとって馴染み深い、「リサイクル料金」についてもご説明します。
自動車リサイクル法は、車のリサイクルにおける「役割分担」を決めたもの
法律自体の仕組みとしては、自動車リサイクル法は「自動車のリサイクルに携わる関係者」に対し、それぞれに求められる役割を担ってもらうための法律として構成されています。
関係者というのは、以下に挙げる5者を指します。
①自動車製造業者・輸入業者(自動車製造業者等)
自社で自動車を製造しているメーカーや、海外から自動車を輸入している業者などが該当します。
自社で製造・輸入した自動車が、ドライバーの都合や故障等で使用済となった場合は、その自動車から発生するフロン類・エアバッグ類及びシュレッダーダストを引き取ります。
これらの物品はリサイクルされ、フロン類に関しては破壊する形での処分が義務付けられています。そして、これらの作業は必ずしも自社で行う必要はなく、解体業者又は破砕業者に委託して、解体自動車のリサイクル(全部再資源化)を行うことができます。
②引取業者
いわゆる自動車販売業・整備業者などが該当します。自動車の所有者から使用済みの自動車を引き取り、フロン類回収業者・解体業者に引き渡しを行います。
なお、引き取り業者は都道府県知事等による登録制となっており、ここが全てのリサイクルルートにおけるスタートラインになります。
③フロン類回収業者
フロン類の適正な回収を行い、回収したフロン類につき何らかの形で再利用する場合を除いて、自動車製造業者に引き渡す役割を担います。
こちらは、自動車製造業者にフロン類の回収費用を請求でき、都道府県知事の登録制となります。
④解体業者・破砕業者
使用済自動車のリサイクルに直接携わる業者で、エアバッグ類・シュレッダーダストを自動車製造業者に引き渡す役割を担います。回収費用は、自動車製造業者に請求でき、こちらも都道府県知事の登録制となります。
エアバッグ類の取り外しに関しては、自動車製造業者から委託を受けていれば、あえて取り外さずに車上作動処理(解体自動車に装備されたまま作動させること)を行うこともできます。
車上作動処理には、エアバッグのガス抜きの手間が省け、リサイクル料金を安くできるというメリットがあります。
⑤自動車所有者
主にドライバーが該当しますが、複数の自動車を所有している会社も該当します。リサイクル料金の負担者であり、使用済となった自動車を引取業者に引き渡す役割を担います。
車検期間が残っていれば、残存期間に応じて自動車重量税の還付が受けられます。
自動車リサイクル法が必要になった事情
経済産業省によると、自動車が廃車になっている台数は、年間約350万台と言われています。
そして、車はその多くが有益な金属(鉄など)で構成されていることから、総重量の80%がリサイクルされますが、残りの20%はシュレッダーダストというゴミくずになってしまいます。
もともとは、埋立処分という形で処理されていましたが、最終処分場の容量不足と処分費用の高騰により、不法投棄などを行う悪徳業者が問題になりました。
また、フロン類など環境問題に影響を及ぼす化合物の適正な処理、エアバッグ類の安全な解体など、進化する自動車業界全体の浄化を目的とした「新しいリサイクルの仕組み」が望まれ、自動車リサイクル法は生まれました。
「リサイクル料金」とはどのような料金?
自動車リサイクル法において、リサイクルに必要な費用は「自動車所有者」が負担するものと定められています。この費用がリサイクル料金で、シュレッダーダスト・エアバッグ類・フロン類の処分にかかる費用につき、自分が所有していた車の種類に応じて負担します。
リサイクル料金の水準は、シュレッダーダストの発生量・フロン類の充填量・エアバッグ類の個数や取り外しやすさなどに応じて変わります。
目安となるのは車の大きさで、コンパクトカーは1万円を切るものもありますが、大型バスになると4~6万円以上になり、1台1台に設定されています。
リサイクル料金は、新車購入の段階で支払うよう定められており、中古車として販売する場合はリサイクル料金相当額を受け取ることができます。
これは、一度支払ったリサイクル料金は、資金管理法人である『財団法人 自動車リサイクル促進センター』が預かり、その車が「廃車になってリサイクルされる」まで管理される仕組みが整っているからです。
実質的には、その車の最終所有者が、リサイクル料金を負担するものと考えてよいでしょう。
自動車リサイクルにおける「再資源化業務」について
自動車リサイクル法で定められている5者の役割分担は、つまるところ「資源の再資源化」が目的です。再資源化とは、使用済自動車・解体自動車などの全部または一部を原材料・部品などにしたり、製品の一部として利用できる状態にすることを言います。
部品として活用するだけが用途として認められているわけではなく、残されたものを燃焼させて熱を得ることも、再資源化の中に含まれています。続いては、自動車のリサイクルにおける再資源化業務について、詳しく見ていきたいと思います。
「再資源化」は、主に4つの分野で分けられる
再資源化は、1台の自動車に対する関係者が、それぞれで携わっている分野によって分けられます。大きく分けると、以下の4つが該当します。
①使用済自動車を解体し、再利用できる部品やリサイクルできる金属・プラスチック類を取り外して回収すること
②再利用できる部品・リサイクルできる金属・プラスチック類を取り外した解体自動車につき、これを破砕し、さらに金属・プラスチック類を選別・回収すること
③解体自動車の破砕によって生じたゴミ(シュレッダーダスト)などを燃やし、蒸気を製造してサーマルリサイクル可能な状態にすること
④シュレッダーダストに含まれる資源(金属など)をリサイクルできるよう、状況に応じて破砕・選別を行い、新たに資源を回収すること
かつて、シュレッダーダストは埋立以外の処分方法がありませんでした。しかし、技術の向上によってリサイクルできる素材の量は増え、サーマルリサイクルによる「熱」という形でのリサイクルも実現しました。
また、シュレッダーダスト自体を原材料に戻すこともできるようになり、技術は日々・年々進歩しています。
設計段階から工夫されたリサイクル
現代において、自動車メーカー・輸入業者は、リサイクル性を向上させるため、設計段階において「リサイクルしやすい材料の利用」・「使用済自動車の解体のしやすさ」を考えた設計を求められています。
具体的には、リサイクルしやすい樹脂を利用して部品等を作る・他の部品に干渉しない状態でワイヤーハーネスを引きはがせるようにする・部品構造を見直して解体時の取り外しやすさを向上させる・部品の寿命向上と交換頻度削減に取り組む、といった要素が求められています。
リサイクルを前提に自動車を作ることで、解体などに携わる業者の手間が省け、最終的に自社の負担も軽くなります。誰かが割を食うことなく、関係者全員がリサイクルに携わることで、好循環が生まれている一例と言えるでしょう。
「あいのりラブワゴン」のCMに見る「走れない車」の定義
リサイクルという言葉は、確かに自動車業界・廃車業界にとって、もはや無視できないものになっています。また、走れない車が生まれ変わることは、時としてドラマチックに考えられるかもしれません。
しかし、ここで言う「走れない車」というのは、必ずしも物理的な故障ばかりが原因ではなく、人間の都合も多分に含まれています。
代替品がなくなること・国で規制がかけられることなど、様々な事情で「走れないと認定された」車も、残念ながら走れない車に定義されます。
トヨタのCMで「ラブワゴンと、99%の愛」という動画があります。動画の中で、フジテレビの「あいのり」という番組で使われた、たくさんの登場人物を乗せて世界を走ったワゴン「ラブワゴン」が登場します。
初代ワゴンは1999~2000年まで走ったとされていますが、これは少しの間展示されてから、箱根町に放置されていました。もし、展示前・展示後に修理をしていれば、まだ走っていた車かもしれません。
また、走れなくなった理由として、動画では「バッテリーの故障と排ガス規制」を挙げていますが、率直に言えば発覚した段階でバッテリーを交換していれば、排ガス規制が設けられていない別の県で走ることも考えられたはずです。
つまり、ラブワゴンの命は、持ち主である人間の都合で定められた一面もあると言えます。走れない車をリサイクルするのは当然としても、古い車を大事に乗ることが支持されていない風潮に関しては、政府も含め業界全体で再考する価値があるかもしれません。
おわりに
使用済自動車は、その役割を終えた後、それぞれが新しい車の命を支える役割を担います。そのために、自動車に携わる個人・会社・団体が、それぞれの立場で協力することで、日本のリサイクル・再資源化は成り立っています。
リサイクルを前提とした自動車製造・廃棄の仕組みが進化していることは、次世代に負の遺産を残さない意味では素晴らしいことです。しかし一方で、まだ乗れる車を安易に廃車にすること・まだ乗れる車に対して重税をかけることについては、社会全体で再考の余地があるはずです。
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